南房総 喰旅

天皇は人間が生きていくために、 ほかの生き物たちを殺生しなけれ ばならないことに大変心を痛めて いたようで、「犠牲となった き 物を供養し、霊を鎮める儀式の形 にできないか」という想いを受 け、山陰卿が「庖丁式」を完成さ せたのだ。 烏帽子と直垂をまとい、右手に式 庖丁、左手にまな箸 持ち、古式 にのっとった無駄のない所作と熟 練の技で、一切 を触れることな く、鯉、真鯛、真魚鰹などがさば かれていく。後世、「庖丁式」 担う様々な流派が生まれるが、本 来四篠流の継承は口伝を重んじて いる。日本の食文化、そして日本 料理の伝統と精神を伝える厳粛な 儀式なのだ 「庖丁と箸だけで執り行う特殊な 技術なので、刀主は相当な経験と 修行を積んだ人のみ務めることが できます。昔は神前で儀式を行っ 醤油醸造・調味料の神と祀ら る。醤には、野菜を発酵さ 穀物を発酵させた穀 発酵させた肉醤があ 、味噌醤油 塩 れらは日本料 磐鹿六雁、こ 高家神社 [ たかべじんじゃ ] TEL.0470-44-5625 ■住 所/南房総市千倉町南朝夷164 ■時間/8:00~17:00(境内見学自由) ■駐車場/16台 三方を海に囲まれた南房総市の千 倉駅から高家神社までは約2㎞ 。 茅 葺き屋根の本殿 、料理の神様で ある磐鹿六雁命が祀られている。 「主祭神である磐鹿六雁命の名 は、『日本書紀』に記されている ほど歴史があるんです」と、 約 40 年にわたり高家神社の宮司を務め る高木幹直さんは話す。 延暦8 (789)、磐鹿六雁命 の子孫である高橋氏が朝廷に奉っ たとされる『 橋氏文』には、さ らに詳細な記述が残されている。 今から約1800年前、 第 12代景 行天皇は皇子・日本武尊によって 平定された東国へ訪れた際に 現 在の南房総地域にある「安房の浮 島の宮」に立ち寄られた。そこ で、侍臣 磐鹿六雁命が、海に弓 の弦をたらすと堅魚が釣れ、砂浜 を歩くと白蛤(=はまぐり)が足 に触れてとれ そうだ。 「私 も経験がある ですが、海 に入って足のつま先でほじくる と、貝が簡単にとれる時代があっ たんです。魚が もとをかすめた りもしました。磐鹿六雁命は非常 に料理上手であったとされ、とれ た堅魚と白蛤をなますや焼き物に して天皇にお出ししたところ、そ の味が褒め称えられて、朝廷で料 理を作る職・大膳職長に任じられ ました。南房総の海の食材で作っ た料理が大変喜ばれ、朝廷の調理 人の最高位に就くことができたん ですね」と、高木さん。 また 宮中醤院では、大いなる瓶 (かめ=べ)に例え、高倍さまと ていましたが、今は、皆さんにご 覧いただくために一般公開してい るんです」と、高木さん。 この儀式には一般客だけではな く、たくさんの料理関係者たち も、その妙技を見学しに訪れるの だとか。 日本料理の伝統と精神を敬い、食 材に対する感謝の心が深く根付い ているからこそ、南房総は伊勢エ ビやサザエ、アワビをはじめ多彩 な海の幸・山の幸にも恵まれてい る。この地で、美味しい食材と料 理に出会えるのは必然なのだ。 高 特集1 高家神社宮司 高木 幹直 さん 長い南房総の こころ ほうじょう まながつお おおかしわでのおさ ひしおつかさ たかべ いわかむつかりのみこと たかはしうじぶみ やまとたける かつお 03

RkJQdWJsaXNoZXIy Nzc2MzM=