南房総富浦総合ガイド資料集

海草と貝のちょっとしたお話

【アラメとカジメの和名】

アラメもカジメも富浦の海にはたくさん生えていますが、この2つの海草の和名が、富浦での呼び名と逆になっているのです。
つまり、富浦でカジメと呼んでいるのがアラメ、アラメと呼んでいるのがカジメと言うのが正式な和名なのです。では、なぜそのようになってしまったのでしょうか。
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現在の正式な和名
カジメ アラメ

明治時代の初期、動植物に日本全国に共通する和名をつけることになった時のこと、三浦半島の油壺に研究所を持つ東京帝国大学が、三浦半島の方言名をとって、Aにカジメ、Bにアラメと命名しました。
その時、小湊に臨海実習所を持つ水産講習所(現東京水産大学)は、房州の方言名をもとに、Aにアラメ、Bにカジメと命名しました。
「すべての学問は帝国大学から始まる。」
「海のことは水産講習所にまかせてもらいたい。」
等々の意見が交わされたそうですが、やがて三浦半島の方言名が採用される結果になり、房州方言とは逆の命名になってしまったということです。

【オオヘビガイ(ヘビガイ科)】

富浦海岸の、特に岩礁性の海辺を歩いていると、オオヘビガイの貝殻を拾うことができます。
名前のように大蛇がとぐろをまいたような形の貝ですが、海に生息している時は、タイドプールと呼ばれる干潮時にできる潮だまりなどの岩にしっかりと付着しています。口から海水中に粘液状の薄い膜を投網のように広げて、そこにかかるプランクトンなどの微小生物を口の中に引き込んで食べていると言われています。
形が耳に似ているとか、内耳のうずまき管に似ていると言うことから、方言名ではミミガイ(ミミゲエ、ミミゲッコ)と呼び、赤い木綿糸で結んで首飾りにしてお地蔵様に供えて、耳の病が治るように、また耳がよく聞こえるようにとお祈りをしたりしました。

【ハイガイ(アカガイ科)】

南無谷海岸を歩くとハイガイの貝殻を拾うことができます。厚くずっしりとしたこの貝は、現在、千葉県以北の海には生息していません。図鑑(保育社)によると、分布は本州南部以南とあります。その貝がなぜ南無谷海岸にあるのでしょう。
今は亡き地質学者の遠藤正夫先生(原岡)によりますと、南無谷海岸の沖の方にハイガイなどを含む地層が堆積していて、そこから流れ寄ってくるとのことです。地質年代についての調査はまだされていませんが、古いものではないそうです。
現在、ハイガイは、四国、九州、沖縄方面に生息しているので、当時の南無谷のあたりが今より暖かかったためと思われます。ハイガイの他に、カニ、カキ、オキシジミの化石も見つかっています。
ハイガイは、九州の方ではチンミ(珍味)と呼ばれ食用にされています。東京湾の砂地に住み、食用にされているアカガイやサルボウと同じ仲間です。
漢字では「灰貝」と書き、焼いて灰にしてセメントの原料にされているそうです。